■ 「うつ病は治る」は本当か?──SNS時代の“メンタル商法”を考える
SNSやブログなどでよく見かける「うつ病が完全に治った!」という体験談。
「この方法で回復しました」「今では人生が変わりました」など、希望を与える言葉が並びます。
しかし、その言葉に強い違和感や虚しさを感じる人も少なくありません。
なぜなら、慢性的なうつ病を抱える人の多くは、「完全に治る」感覚とはかけ離れた現実を生きているからです。
■ 軽症の「うつ状態」と、慢性的な「うつ病」は違う
うつ病という言葉はひとまとめにされがちですが、実際には程度も経過も個人差が非常に大きいです。
▽ 一般的に“回復しやすい”とされるケース
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ストレス性の一時的なうつ状態
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環境を変えることで改善する場合
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服薬と休養で数ヶ月以内に寛解するタイプ
▽ 慢性化しやすい、または「完治しにくい」ケース
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原因が複合的で特定できない
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子ども時代のトラウマ(AC、虐待など)と結びついている
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双極性障害など他の診断も併存している
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気候・季節(気象病)などに大きく左右される
こうした慢性うつでは、**「治る」ではなく「悪化と小康状態を繰り返しながら生きていく」**という表現の方が実態に近いという声が多く聞かれます。
■ SNSの「うつ病克服アカウント」に感じる違和感の正体
SNS上で目立つ「うつ病克服アカウント」や「メンタルヘルスコーチ」は、時に以下のような特徴を持ちます:
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自身の回復体験を元に指導している
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有料のカウンセリング・コーチングを販売している
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精神科医や心理士ではない
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共感を装った営業文脈がある
もちろん、本人が本当に苦しみを乗り越えたという可能性もあります。
しかし、慢性うつの当事者から見ると「再現性のない話」に思えることが多いのです。
特に、広告的な言葉が並んでいる場合、「商売目的では?」と疑問視されても無理はありません。
■ 季節性うつ(SAD)──6月に悪化する人も多い
慢性うつの特徴のひとつに、季節・天候に敏感になるという傾向があります。
特に日本の「梅雨」の時期は日照不足と気圧変動が重なり、精神面にも悪影響を及ぼします。
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頭が重い
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動けない
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感情が鈍る
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自責感が強まる
これは単なる「気分の落ち込み」ではなく、身体的な変化に伴う抑うつ状態であり、「天気のせいにするな」と言えるようなものではありません。
■ 「回復」と「完治」は別物である
多くの慢性うつ患者にとって、目指すべきは「完全に治ること」ではなく、
**「少しでもマシな日を増やすこと」「落ち込みをやり過ごす術を持つこと」**かもしれません。
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完治=ゼロに戻す
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回復=機能を取り戻しながら生きる
こう考えると、「治らない=絶望」ではなく、
「治らないけど生きられる状態」を育てていくという方向に希望を持てることもあります。
■ まとめ:うつ病を語るとき、“軽くない人”の声も大切に
世の中には、回復の希望を語る人の声が溢れています。
それ自体は尊いものです。
しかし同時に、何年も苦しみながら生きている人の「まだ治っていない」という声も、同じくらい大切です。
その声を「否定」でも「努力不足」でもなく、
「そういう現実もある」と正面から受け止められる社会であってほしい――。
うつ病とは、そんな「多様な現実」が共存する、深い病です。
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