精神科をいくつか通った人なら、きっと共感すると思う。
診察時間は、長くても5分から10分程度。
その短い時間で、うつ病が「治りました」となることは、正直ほとんどない。
もちろん、薬の力で気分が持ち上がり、
良い波に乗るようにして元の生活に戻れる人もいる。
それは事実だと思う。
けれど、すべての人に薬が効くわけではない。
効き目を感じられない人もいるし、
副作用でかえって日常がつらくなる人もいる。
そうなったとき、残酷だけれど現実として突きつけられるのが、
**「自分で生き方を探すしかない」**という事実だ。
医者は診断と処方はしてくれる。
それは、とても大切な役割だ。
ただし、医者は人生そのものを代わりに生きてくれるわけではない。
医者は、有益な補助アイテムを手渡してくれるかもしれない。
けれど、その道を実際に歩き、
どの水たまりを避け、
どの日陰で立ち止まって休むかを決めるのは、
自分自身の足だけなのだ。
起きる時間。
食べるタイミング。
人との距離の取り方。
今日は休むのか、それとも少しだけ動くのか。
うつ病が長くなるほど、
人生は「治す」ものではなく、
「どう付き合って生きるか」を考えるものに変わっていく。
それは、波を消す作業ではない。
波のない海を目指すことでもない。
今日の波は高いのか低いのか。
無理に乗らず、横に流すのか。
それとも、少しだけ身体を預けるのか。
そうやって、
波にどう乗るかを模索する毎日になる。
それは諦めではない。
現実を正確に見たうえでの、生き残るための選択だ。
医者に通うことは無意味ではない。
薬も、環境調整も、制度も、すべて大切だ。
でも最後に残るのは、
「今日をどうやり過ごすか」を決める自分自身だ。
うつ病は、誰かに完全に治してもらう病気ではない。
自分の生活の中で、少しずつ、
波との距離感を覚えていく病気なのだと思う。

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